試作品置き場

アラサーだけど絵がうまくなりたい男のブログ

よー清水『「キャラの背景」描き方教室』は今だからこそ立ち向かえる教本になりそう

挨拶 にも書いたが美術が苦手だった。 風景画は、拷問そのものだ。具体的な技術を何も教えられず、ただ「描け」と命じられ、完成するまでひたすらに自分のできなさに打ちのめされ続ける苦行。 何がダメなのか分からないから、クオリティを上げようにもどう努力すれば良いのか分からない。 汚くなっていくキャンバス、歪んだ線、まとまらない形。

美術、それも風景画とは、私にとってパニックそのものであった。

にもかかわらず、である。思春期をオタクとして過ごした私は、何を血迷ったか絵を描き始めた。当時は三次元に性的興奮を覚えなかったし、性癖に刺さる二次元イラストも多くなかったからだ。 ないものは作るという精神で、ヘタクソながら描き始めた。

キャラは描けるようになった。大学生の頃には、Pixivのデイリーランク入りを果たしたり、R-18イラストが安定して100ブクマいったりするようになった。

それでも、背景はほとんど描かなかった。いや、描けなかった。講座を見て、真似してみては全くうまくいかずに挫折する繰り返し。

コロナ禍がなければ、この弱点を放置していただろう。 しかし、コロナ禍で休日を家で過ごす時間が長くなり、同人誌即売会が減った。 正確には再開しつつあるのだが、去年サークル参加したイベントの直後に体調を大きく崩して焦ったのでワクチンが行き渡るまでは参加しないことにした。

というわけで原稿を捨て去った私は、久々にちゃんと勉強しようと思い立ったのである。 その第一弾が パク・リノ『お絵かきチュートリアル』 であり、第二弾が よー清水『「キャラの背景」描き方教室』 である。

模写を始めたばかりだが、全部やろうとすると半年コースになりそうなので徐々に書いていきたい。 まず、「初心者でも~」と謳っているが、この本の想定する「初心者」は以下の2パターンになる。

  • キャラクターは描くが、 背景については初心者
  • リアルで絵画は描くが、 デジタルイラストについては初心者

間違っても、リアル絵画の経験もキャラクターイラストの経験もない「初心者」が手を出してはいけない。間違いなく挫折する。

別分野の話になるが、将棋の本は有段者向けのものになると1ページで何手も進む。感覚としてはアレに近い。 有段者なら脳内で動かしたり並べたりして理解できるが、級位者は並べるのが精一杯で意味がとりきれない。 同じメカニズムで、「初心者」は間違いなく消化不良を起こす。その意味では、本書はきわめて有段者向けだ。

本書はまずパースを使わない背景として青空を背景にした少女のイラストを描くのだが、8時間かけて模写したが全く似なかった。第一章の内容は抜粋記事があるので下記を参照してほしい。

www.clipstudio.net

そして、模写がこれだ。顔を描くのが苦手なのがバレる仕上がりである。

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顔を描くのが苦手マン

描いている最中に感じたのは冒頭にも書いた、美術の時間での敗北感だ。何をどうやっても自分には「描けない」という絶望感は、そうそう拭い去れるものではなかった。

しかし、今回は頑張って完成までこぎ着けられた。完成まで私を導いたのは経験もあるが、気合いと、配布されているブラシと、著者のエゴサのおかげだ。

ここ最近、練習して気付いたことをかなり詳細にメモしているが、このメモを褒められた。 このメモは、絵については他人の提唱する上達法の表面をなぞって四苦八苦するだけだった自分が初めて「考えて」練習できている証だったが、ここを見てもらえたのはめちゃくちゃ嬉しい。

世に出したものをエゴサするのはけっこうしんどい。悪い評価もたくさん目にする。 私はCtoCのアプリを作る会社でエンジニアをしているが、自社プロダクトでエゴサすると「ゴミ」とか言われることがあるし、なかなかに堪えるものがある。決して邪悪なプロダクトを作っているわけでなくとも、現実的に悪評というのは立つものだ。 その苦しみを背負ってでもエゴサしてレスするよー清水先生は本当に凄い。

話を戻そう。中学の美術を思い出す敗北感に耐えながら、8時間かけて模写した。そのなかで様々に発見があったが、まだ自分のなかで文書化できるほどに消化しきれていない。

唯一、言語化できるほどに強く思い知ったこととしては、「拡大しすぎない」ということだろうか。拡大すると差分が大きすぎてしんどさしか生まれない。 ところが引いてみると意外とちゃんとしていたりする。引いた状態で整えてから細部に戻ると何とかなってしまう。これは水滴の描き方で思い知った。

出来る人からすれば当たり前のことだろうが、この行き戻りを画材の乾燥や特質を気にせずできるのがデジタルイラストの強みだということは強く感じた。

また、オーバーレイや乗算などのレイヤー効果の使い方についても発見があった。1レイヤーで描いている時に発光させたり、ちょっと色味を変えたいときに使うとすごく捗る。 これもリアル絵画だと最初から綺麗に色を見ることができていないとどうしようもない(そして私はこの色を見る能力が非常に低い)

このように弱点ときちんと向き合う心の余裕と、分かった弱点にどうアプローチすれば良いかのアイデアがなければ難しい一冊だが、なんとかやりきりたいと思う。